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無用の用、またはデザインの効用について

以前にも書いたようにユーロスターでパリに行ったことがある。
飛行機と違って、列車だから当然外の景色が見えるわけです。その時に目に付いたことは、フランスの高圧線をつなぐ塔(何て言ったのか知らん)の美しさ、かっこよさでした。全部ではないけれど、赤と白に塗分けられ、その形も人の姿に見立てることができるようにつくられているようなのでした(写真を撮り損なったのが、残念!)。しかも、その形は機能と無関係ではないし、もちろん損なうこともない。

色を塗り分けることは高圧線用塔(と呼ぶことにします*)の直接の機能(いうまでもなく、高圧線を支えること)とは関係ありません**。しかし、見るものを楽しくしてくれます。とすれば、無用の用というのは変かもしれないけれど、これは立派にもう一つの機能を果たしていることになるのではないか。形態を工夫することは、機能を満たしながら、やはり見る喜びや楽しみを与えることにほかならない。
このことからもデザインは、決して直接の機能を満足させるだけのものではないということがわかるでしょう。

これが、農業国であるフランスで実現されていたということにある種の感興を覚えずにいられません。といっても、フランスは生活を楽しむことにかけては人後に落ちないところだから、不思議でも何でもないか。そういえば、先日、アシスタント・ライブラリアンのジャンと話していたら、「フランス人は楽しみのために食べるけれど、イギリス人は生きるために食べるのだ」とやや自嘲気味に言っておりました(「ま、いわば車にガソリンを入れるようなものね」とも言ってた)。お金をかけないで工夫するおしゃれも上手らしいしね。
高圧線用塔のようなものについては、イギリスにおいても無関心であるようだし、わが国においてもそのあたりの事情はあまり変わるところがないように見える(ま、機能美というものもあるけれど)。さて、デザインの国として知られるイタリアや北欧諸国ではどうなのだろうか。ぜひ確かめたくなりました。

そして、たぶん見る喜びや楽しみを得ることができたなら、私たちによい影響を与えるはずに違いない。実は、デザインの人に及ぼす効用を明らかにしてみたい、測定してみたいとひそかに思っている今日この頃であります(今まで、オックスフォードの各カレッジを巡りながら聞いた限りでは、美しい環境の中で働くことは大いなる喜びだという人ばかりなのでした)。

*その後インターネットで調べてみると、送電鉄塔というらしいです。この鉄塔を好きな人が案外多いことにも驚きました。ここに載せた写真を撮影し、貸してくださった「鉄塔ママ」さんもそうした送電鉄塔愛好家の一人です(送電鉄塔の旅日記 http://members2.jcom.home.ne.jp/tettou-mama/)。そして、送電鉄塔美術館というのもあります。日本の鉄塔にもいろいろなものがあることを教えられました。ぜひ訪れてみてください。
**これは、日本では航空法によって義務付けられており、高さ60mを超える建造物は、そのように塗装することになっているそうです。また、60m以下のものでも、飛行場のそばなどでは、やはり注意を促す意味で紅白塗装がされると、「鉄塔ママ」さんが教えてくださいました(どうもありがとうございました)。
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by fujimoto0223 | 2006-07-13 21:11
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