人気ブログランキング | 話題のタグを見る

オックスフォードの中のモダンデザイン

先日は久しぶりによく晴れたので、ユニバーシティ・カレッジ(たぶん、オックスフォード大学で最も古い)に行って、比較的簡素な石造りの建物の重厚さとこれに囲まれた芝と色とりどりの花、あるいは木々の対比を楽しみました。写真を撮りに他のカレッジに出かけたのはほぼ一と月半ぶりで、このところ曇りがちでおまけに肌寒い日が多くて晴れ間が続かずなかなか撮影計画を実行できずにいましたが、しかし、あちらこちらにさまざまな花が咲き、木々の緑は確実に鮮やかさを増してきて、いよいよ春がやってきそうな気がします(もしかしたら、春を通り越して一気に初夏になるのかもしれません)。ま、あんまり天気が良すぎるのも写真撮影には考えものだけれど(場面によっては逆光になることがある)。
翌日もまたこれに劣らないほどによく晴れたので、今度は散歩がてらに川(チャーウェル川)沿いを少し歩いてみようと思って、セント・キャサリン・カレッジ(Catzと呼ぶらしいです)に出かけました。ここはユニバーサル・カレッジとは逆に、一番新しいカレッジであることは何となく知っていたので下調べもせずに行ったのですが(つまり、あんまり期待せずにということ。新しいカレッジ→新しい建物という連想が働き、新しいものは概して良くないと感じていたからね)、少し歩くともうポロのアウトレットで見つけたコットンセーターではちょっと汗ばむくらいだった(さあどうしよう、これからしばらく着るものがない!)。残念ながら川沿いへのフットパスが閉じられていて川沿いは歩けなかったけれど、途中にあったセント・クロス・カレッジの建物(別館)の芝生にはTシャツ姿の学生がたくさん出てきていた。

Catzは思っていたよりもマンスフィールドから近くてすぐに見えてきたのですが、いかにもという建物が目に入ってきて、さらに近づくと塀も何もない代わりに、何やら工事中でずいぶん殺風景な感じがしたのでありました。「やっぱりね」とやや失望しながらも気を取り直して、何やら黒い袋をたくさん運んでいたおじさんにポーターズ・ロッジの場所を教えてもらい、そこで地図を貰って教わったとおりに進んでもなかなか中庭への入口が見つからない。やれやれと思いながら通りがかった2人組の学生に聞くと、今は工事中だからあちらから行けと教えてくれた(英語で)。それからやっと中庭にたどり着くと先ほどの学生が近づいてきて、あれが図書館だと案内してくれたのでありました(まあ、親切ですね。それともよっぽど頼りなげに見えたのかしらん)。
ようやくたどり着いた中庭は他のカレッジとは異なって閉じておらず、両側に長い学生寮があり、短辺の両端には図書館とホール(食堂)が控えるという構成で、おまけにとても広い。ずいぶん開放的な感じがしたのはからりと晴れた青空のせいかもしれません。短辺の両端の建物と学生寮の間は四角く刈り込まれた何列かの生け垣があり、ここを抜けて他の区域へつながるというしかけです。ついでに言うと、ここにはチャペルがない。
学生寮はコンクリートとガラス*、図書館はこれに一部黒くなった銅版で仕上げられており、反対側のホールは薄い茶色のタイルが貼られているのですが大部分を蔦が覆っている。いずれの建物もシンプルなもので、これ見よがしのところがなく、おまけにちょうどよい具合に古びているせいで落ち着きがあって、とても好ましく思われたのでありました(ちょっと退屈かもという評もあるようだけれど、オックスフォードの新しい建物で良いなと思ったのはほとんどこれが初めてだった)。いったい誰の設計なのだろう・・・。
さっそく帰って調べてみると、デザインしたのはアルネ・ヤコブセン**で、1960年から64年の間に建てられたということでした(なるほどね。ヤコブセンは皆さんも知っているとおりアント・チェアやエッグ・チェアで有名なデンマークの建築家・デザイナー。でも建築よりも家具のほうが有名ですね)。

その後もたくさんの建物が加えられ、いまでは学部生全員が学内の寮に住んでいるということです。350人収容というおそらくオックスフォードで最も大きくておまけに気持ちの良い食堂には娯楽室とバーが併設されるなど学生のための施設が充実しているだけでなく、大小の会議・集会室を持ち、ほかにもとても広いグランドや素晴らしい自然に恵まれている。おまけにモダン・アートの名品をたくさん持っているらしい***。天気が良かったせいか、図書館の奥の庭に面したテラスではいくつかの学生たちのグループが思い思いの場所でくつろいだり、話したりしていたのはなかなか良い光景でした。
ホールで一人座っていたセキュリティの人に断って(英語で)中の写真を撮ったあと外の小さな中庭に出てちょっとした感慨にふけりながらたたずんでいたら、追いかけるように彼がやってきてひとしきり話しをしたのですが、彼はこうした環境で働くことができてとても幸せだと言っていました(うーむ)。
写真を撮るのにちょっと倦んできたので何か飲み物を買おうと思ってバーに行くと、お姉さんにここの学生じゃなきゃダメと言われたのがちょっと残念でした(あんまり関係ないけど、セント・ジョンズでは無料で音楽を聴かせてくれるだけでなく、ワインまで飲ませてくれたのにね。もしかしたら、写真を撮っていいかと訊いた時に私を撮るのと言われて、いいえと返事をしたのがいけなかったのかもしれない)。 

The Oxford Handbook 2004という本によれば、Catzはオックスフォードの中でも最も有名なカレッジのひとつであり、最も若く、大きくて、近代的でかつ野心的であるために毀誉褒貶半ばすることもあるらしいのですが、その創設者は「勉学するに足る意欲と能力があり、しかも他のカレッジに通うだけの学費を払えない学生にオックスフォードの教育を与えることを目的とした」というようなことが書いてありました(うーむ。・・・。最近は、何だかうならされてばかりいるようです)。

*プライバシーがちょっと心配だけれど、建築の専門誌Architectural Review には「オックスフォード一の宿泊所(motel)」との評が載ったらしい。
**時の学長は新しく建物を建設するに当たって、建築家を探すのにほぼ2年間かけた後に実際に彼のデザインしたコペンハーゲンの近くの学校を訪れ、ここに足を踏み入れた時に探していた建築家を見つけたと確信したそうです(うーむ)。
***たとえば、入口近くの学生寮の前庭にはイギリスの女性彫刻家バーバラ・ヘップワースの彫刻がある。また、オックスフォード・ミュージアムでモダン・アート展が開催された時にはここからたくさんの名品が貸し出されたとのことです。
オックスフォードの中のモダンデザイン_e0059509_244766.jpg
オックスフォードの中のモダンデザイン_e0059509_252013.jpg
オックスフォードの中のモダンデザイン_e0059509_2557100.jpg

by fujimoto0223 | 2006-05-09 02:57
<< 2回目の旅行 − サヴォワ邸 はじめての旅行 >>